犬の抜け毛には、生理的(異常ではない)抜け毛と、病的な(病気による)抜け毛があります。
抜け毛の原因となる病気には、感染症、アレルギー性疾患、ホルモン性疾患、遺伝性疾患などが考えられます。
プティシアン(小型犬、超小型犬)の中でも、特にポメラニアン、トイ・プードルの場合には「アロペシアX」という病気が原因である可能性もあります。
しかし、「アロペシアX」は他の皮膚病と症状が似ており、見逃されがち。
抜け毛の治療が長引いていて、効果が見られない場合には、「アロペシアX」の可能性を獣医師に確認するのをおすすめします。
犬の「生理的な抜け毛」と「病的な抜け毛」の違い
犬の抜け毛には、生理的な(異常ではない)抜け毛と、病的な(病気による)抜け毛があります。
ここでは、生理的な抜け毛と、病的な抜け毛の違いについて解説します。
生理的な抜け毛:換毛期の見分け方
暑さや寒さに備えて毛が入れ替わる時期を、換毛期と言います。
換毛期の抜け毛は生理的なものなので、心配はいりません。
犬の換毛期は、原則的には春と秋の2回訪れます。生活環境にもよりますが、期間はだいたい10~20日間です。
換毛期での毛の抜け方は、病的な原因の抜け毛と違い、皮膚は正常な色です。そして、ほとんどの場合、すでに次の毛が生えています。
以下は、原則的には換毛期がないため、一年を通して抜け毛は少ない犬種です。
- トイ・プードル
- ヨークシャー・テリア
- ビジョン・フリーゼ
- マルチーズ
など
病的な抜け毛:よくある症状を確認
換毛期でもないのに毛が抜け続けたり、毛が抜けるのに次の毛が生えていないときには、病的な抜け毛の可能性があります。
病的な抜け毛の場合は、抜け毛以外にも以下のような症状が見られます。
- 地肌がはっきりみられる(脱毛している)
- 皮膚が赤い
- 皮膚にかゆみがあり、掻いたり、舐めたりする様子がみられる
- 毛の間にフケがある
- 皮膚を触るとゴツゴツとした感触がある
- 皮膚にかさぶたがある
- 皮膚が匂う
- 皮膚から分泌物が出ている
抜け毛の原因となる病気の種類をチェック
抜け毛の原因となる病気には、大きく分けて以下の4つがあります。
- 感染症
- アレルギー性疾患
- ホルモン性疾患
- 遺伝性疾患
感染症は、膿皮症、マラセチア皮膚炎、皮膚糸状菌症、ニキビダニ症などです。
アレルギー性疾患には、ノミアレルギー性皮膚炎、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎があります。
副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、甲状腺機能低下症などのホルモン性疾患では、皮膚症状として抜け毛による脱毛がみられます。
遺伝性疾患には、淡色の毛をもつ犬に起こる「淡色被毛脱毛」、2色以上の毛をもつ犬で起こる「黒色被毛形成異常症」、チワワ、ミニチュア・ダックスフンド、ミニチュア・ピンシャーによく起こる「パターン脱毛症」などがあります。
また、原因は不明ですが、ポメラニアンやトイ・プードルなどの犬種に起こる「アロペシアX」でも抜け毛の症状がみられます。
生理的な抜け毛にはこまめなブラッシングで対処
生理的な抜け毛の場合は、日頃からこまめにブラッシングを行うことで、抜け毛の量を減らすことができます。
ブラッシングによって、皮膚の新陳代謝と、被毛の生え変わりが促進されます。
常に質の良い被毛が生えそろっている状態を保つことができ、抜け毛が減りやすいとも言われています。
病的な抜け毛が疑われるときは動物病院へ
犬の抜け毛がひどいときには、まず毛が抜けるタイミング(換毛期かどうか)や、毛の抜け方から、生理的なものかそうでないかを見極めることが大切です。
生理的な抜け毛でない場合には、病気が潜んでいる可能性があります。
動物病院で「毛が抜ける」という症状だけでなく、
- 環境
- 食べ物
- シャンプー
- 抜け毛以外の症状の有無
などの情報を獣医師に伝えて、必要な検査を行い、適切な診察や治療をしてもらいましょう。
また、治療開始から3週間以上経過しても、症状に変化が全くみられない場合には、皮膚科認定医のいる動物病院でセカンドオピニオンを受けることをオススメします。
ポメラニアンやトイ・プードルにみられる「アロペシアX」
ポメラニアンやトイ・プードルで、抜け毛が頻繁にみられる場合には、「アロペシアX」が原因である可能性があります。
しかし、「アロペシアX」は他の皮膚病と症状が似ており、見逃されがちな病気です。
また「アロペシアX」を疑って治療を開始しても、治療に対する反応や、治療効果が発揮されるまでの期間に大きな個体差があります。
ですので、治療途中にも関わらず、「アロペシアXはではない」と判断され、治療を中止してしまうケースもあります。
「アロペシアX」の原因は不明
アロペシアは英語で「脱毛症」を意味し、Xは「不明である」という意味に由来しています。
このように、「アロペシアX」は現在のところ原因不明の病気で、ホルモン異常や遺伝的な要因などが関係しているのではと考えられ、研究が進められているのです。
「アロペシアX」になりやすい犬種や年齢、性別
一般的に、1〜4歳の比較的若い、未去勢のオス犬で多く発症する傾向があるといわれています。
また、「アロペシアX」は、ポメラニアンやトイ・プードルといった特定の犬種で発症しやすい傾向があります。
特にポメラニアンに多発するため、「ポメラニアン脱毛症」とも呼ばれます。
「アロペシアX」の特徴的な症状
「アロペシアX」の特徴的な症状は、頭と四肢以外の部分にできる、かゆみを伴わない左右対称の脱毛です。
しかし、この症状がクッシング症候群の犬の皮膚症状と似ているため、「偽クッシング症候群」とも呼ばれています。
また、毛つやの低下、乾燥、色素沈着、さらには皮膚が薄くなったり、皮膚の張りがなるなどの症状がみられる場合もあります。
「アロペシアX」の治療
「アロペシアX」は原因不明の病気のため、明確な治療方法はありません。
しかし、未去勢のオス犬に対しては、去勢手術を行うことにより症状が軽減したり、消失したりする場合があると言われています。
ただ、去勢手術を行っても、数ヶ月あるいは数年後に再び脱毛が始まることも少なくはありません。
また、毛の再生周期を整える働きのある薬やホルモン剤を投与することにより、症状が改善される場合もあると言われています。
「アロペシアX」は、はっきりとした原因が不明のため、治療に対する反応や、治療効果が発揮されるまでの期間に大きな個体差がある病気です。
そのため、「アロペシアX」が疑われる場合には、去勢手術やホルモン剤などの投薬といったいくつかの治療方法を試して反応をみることや、根気強く治療を継続することが大切です。
治療に疑問がある場合はセカンドオピニオンを
「毛が抜ける」という症状が出る病気は、上に書いた通り沢山あります。
また、「アロペシアX」はクッシング症候群などの他の皮膚病と症状が似ているため、見逃されやすい病気でもあります。
そのため、ポメラニアンやプードルで抜け毛の治療を長く受けているが、明らかな効果がない場合、「アロペシアXの可能性はないのか」を獣医師に一度確認することをオススメします。
また、「アロペシアX」を疑って治療を開始しても、治療に対する反応や、治療効果が発揮されるまでの期間に大きな個体差があるため、「アロペシアXではない」と間違った判断をされてしまう場合もあるため注意が必要です。
ほとんどの皮膚疾患において、治療開始から3週間以上経過すれば、症状に何らかの変化が見られると考えられています。
ですので、治療開始から3週間以上経過しているが症状に何の変化も現れないケースや、治療開始からほとんど時間が経過していないにも関わらず、治療を中断されたケースでは、皮膚科認定医のいる動物病院でセカンドオピニオンを受けることをオススメします。
最後に
ポメラニアン、トイ・プードルに代表される小型犬・超小型犬の抜け毛治療と、見逃されやすい「アロペシアX」について解説しました。
犬の抜け毛は一般的に多く見られる症状ですが、中には病気のサインの場合もあります。
病気の早期発見に繋がることもあるため、普段から愛犬の皮膚の様子をしっかり観察するようにしましょう。
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